「動物界、脊索動物門、脊椎動物亜門、哺乳綱、食肉目、裂足亜目、イヌ科、イヌ属、イヌ」これが、私たちが愛してやまないワンコたちの分類学上の位置づけです。
最後の「イヌ」が「種」を示していて、すべてのワンコたちは「イヌと言う種」の哺乳類なのですよね。
生物の学名を論文等に記す場合、『二命法』と言って、分類の最後の二つ、すなわち、属・種をラテン語で書くことになっています。
例えば、私たちヒトはHomo sapiens(ヒト属・ヒト)と表され、イヌの場合、Canis familialis(イヌ属・イヌ)となります。
そ~ん~なの~常~識~。でも、その常識が私の中では長年大きな不思議だったのです。
チワワとグレートデンではどれほど大きさに差があるのでしょうか?
体重で言うと、30-40倍にもなります。
地球上に現存する、あるいはすでに死滅してしまったあらゆる脊椎動物の中で、ワンコほど、一つの種の中で体格・体型のふぞろいな種はありません。
エッ?カバとコビトカバだって体重差が楽に10倍はあるじゃないか。ですって?
そのとおりですが、コビトカバは立派に独立した「種」で、カバとは分類上異なる生き物なんです。
「種」とは、一言で言うと生殖能力を持つ子孫を残せるかどうかで定義されます。
例えば、ウマとロバが結婚するとちゃんと子供が出来ます。
そうです。その子供はラバです。
でも、ラバには子供を作る能力がなく、一代限りです。
ですから、ウマとロバは別の「種」になる訳です。
チワワやヨークシャーテリア、セントバーナードといった、ワンコのいわゆる「種類」は「品種」に該当するもので、全てCanis familialisで同じ「種」です。
同一の「種」なのに、体格に大きな差が生じるメカニズムを明らかにしたいという野望を持つ研究者は大勢いましたが、これまで容易には解明されずに今日まで来たわけです。
ところで、ワンコのご先祖様はオオカミ。
むかしむかしの大昔(約1万5000年前)、一部のオオカミが、人間と共同生活を始めるようになったそうです。
きっかけは、単独で獲物を狩ることが困難な、小さくて、か弱いオオカミ?が、人間の狩のお供をして、ご褒美に獲物のおこぼれをもらうようになったことや、人間集落に入り込んで、人間によって外敵から身を守ることを覚えた、などの可能性が推測されています。
そして、「猟の手助けが上手」や「番犬として有能」、「従順」など人間に役立つワンコが選ばれ、残される行為(原始的な選択育種)が連綿と行われ「飼い犬」の姿かたち、性質の原型が出来上がりました。
さらに、近年になってからは愛玩犬や使役犬を目的に、より計画的・人為的に淘汰が行われ、各犬種の体型や能力、特徴が急速に分化・固定していったと言う歴史があります。
現在のワンコの体格から過去(オオカミの体格)を振り返ると、グレートデンやセントバーナードなど、大型方向への変化は部分的。
体重の増加はせいぜい2-3倍にとどまります。一方、小型方向への変化はずっと大幅かつ急速で、チワワやヨークシャーテリアなどではオオカミの10-20分の1にも小さくなっています。
イヌの体格は大型化と小型化が同時進行している状況ですが、全体としては小型化の方向にあると言えるのでしょう。
ここら辺までは、私たちが中学・高校で習った、ダーウィンの進化論やメンデルの遺伝の法則で論ずることが出来る範囲・内容です。
では一体、ワンコの体の中ではどんなメカニズムが働いて、チワワの子犬はチワワの体格に、柴犬の子犬は柴犬の体格に収まる様に制御されているのでしょうか?
このメカニズムを解明するために、米国立ヒトゲノム研究所やユタ大などの研究チームは、細胞の成長や分裂を促す遺伝子の働きを制御するDNAを調べる、膨大な研究を行い、その研究成果を米国の科学誌サイエンスに発表しました。
研究の標的となった遺伝子は「インスリン様成長因子1(IGF-1)」と呼ばれるものです。
この物質は主として肝臓・筋肉などで、成長ホルモンの刺激により作られるペプチド(低分子のタンパク)で、骨の成長点の細胞分裂を促進する作用を有する広い意味での「ホルモン」です。
人間やマウスにもあり、人間の成長障害(小人症)にも関係しています。
研究は2段階に分けて行われました。
第1段階は、同じ犬種の中での体格の差とIGF-1の関係を調べるものです。
研究の対象となったのはポルトガル・ウオーター・ドッグと言う犬種。
そうです、米国オバマ大統領一家の愛犬としてホワイトハウスに住むことになった、ボー君のポルトガル・ウオーター・ドッグです。
この犬種は個体間の体重差が3倍ほどもあることが特徴で、この研究には向いているのです。
体格差と遺伝子の変異の関連性を探るために約500頭のポルトガル・ウオーター・ドッグの骨格をX線で測定するとともに、血液を採取し、DNA分析を行いました。
その結果、IGF-1にかかわる遺伝子を構成するDNAの配列の違いが体格の差に関係していることがわかったのです。
いささか専門的になりますが、15番染色体のIGF-1遺伝子の働きを制御するDNA塩基配列に特定の変異があると、成長が抑制されて身体が小さくなること、具体的には15番染色体のある場所の塩基が、小型のポルトガル・ウオーター・ドッグではアデニン、大型のだとグアニンという具合に違っていたのです。
次いで、研究の第2段階として、チームはアメリカ中のドッグショー会場を巡り、143犬種の計約3200頭分のサンプルを得、DNAを分析して、この塩基配列変異と犬種としての体格についても研究をすすめ、関係があることを突き止めたとのことです。
将来、この遺伝子を操作することにより、チワワ並みのサイズのセントバーナードやその逆のチワワが誕生するかもしれないですね。
でも、あまり可愛くないかもね。
「動物には疼痛性ショックは存在しない。故に、動物医療において、痛みは重要な要素ではない。」
これは、私が獣医大学の学生だった時に、家畜外科学の教授の授業で教えられたことです。
私のみならず、臨床獣医師となった同窓生の殆どが、教授の講義の影響を受けたことと思います。
教授の言われたことの前半部分は、生物学的(医学的)には正しいことです。
「ショック」の正確な定義は専門書に任せますが、ザックリ言って、「急性に生じる全身の循環不全のために生命を維持するに必要な血液供給が途絶える危険な状態」を表します。そして、ショックは原因により
1.神経原性ショック(疼痛性ショック)
2.循環血液量減少性ショック
3.アナフィラキシーショック
4.敗血症性ショック
5.心原性ショック
などに分類されます。
神経原性ショックは、疼痛などをきっかけとして血管迷走神経反射が生じ、心拍出量の低下、末梢血管拡張→血圧低下が起こるもので、ワンコやニャンコなど動物では起きる率は大変少ないのです(皆無ではありません)。くだんの教授が現役のころ、麻酔装置も現在の様なものはなく、麻酔薬を静脈内に注射すると言う、リスクの高い方法でした。
ですから必然的に麻酔の程度(深度と言います)は、必要最小限の浅い麻酔になることが多く、手術中、動物が少々痛がろうが、鳴き声を上げようが、押さえつけてやり終えることが多かったです。外傷についても、痛さ対策は後回しで、傷の整復や感染症対策を優先した対応でした。
「動物には疼痛性ショックは存在しない。」がお墨付きのように用いられていましたね。今思えば、動物たちに気の毒な事をしました。
動物たち自身も、看病する飼い主さんも、痛いのや、痛がるのを見るのは絶対にイヤですよね。教授のフレーズの後半部分、「動物医療において、痛みは重要な要素ではない。」
には、大いに異を唱えなければなりません。そんな風潮が、大きく変わるきっかけになったのは、ワンコの変形性関節症に対する米国の臨床研究の成果でした。
関節の痛みで、散歩を喜ばなくなってしまった年老いたワンコに新しく開発された消炎鎮痛剤を投与すると、投与しなかったワンコと比べ、イキイキと軽やかに散歩が出来るようになり、食欲も増して、QOLも改善されたと言う報告です。
別の研究では、外科手術に際して、痛みを少なくする処置を十分に行うと、術後の回復が良好であることが証明され、疼痛管理に対する獣医の関心が高まったのです。
近年、飼い主さんがペットさんの健康管理に力を尽くされるようになったお陰で、長生きの動物が増え、結果的にがんを始めとする慢性疾患に罹患する割合が増えています。がんの中でも、根治療法(手術や抗がん剤治療など)の適応にならない場合(進行してしまった場合など)、治療の中心・方向性は「QOLの維持」特に「苦痛の緩和」になります。そのための、お薬の品揃え(痛み止めだけでなく、抗うつ薬や睡眠薬、麻酔薬、ステロイドやオピオイドと呼ばれるものまで)と、適切に使用する薬学知識は、臨床獣医師にとって必要不可欠な素養になっています。病気から来る苦痛を軽減し、飼い主さんと心を通わせる大切な、そして幸せな時間を少しでも長く持たせてあげたいと痛切に思うのです。
「娘が、迷い犬を拾ったので、飼う事にしました。元気がないので診て下さい。」と、
Yさんが、シーズー犬を連れて来院されたのが6月のこと。早速、拝見しましたが、痩せて、ほとんど丸裸に脱毛し、貧血症状を示す雌ワンコ。
外傷は認められませんでしたが、放浪の影響か、衰弱し、表情が乏しく、「意欲」を感じさせないこともあって、あたかもうつ病の老犬の様でした。
診察を進めていくと、歯牙の磨耗や歯石の付着が殆どなく、水晶体の混濁等の加齢所見が無いことから、2歳程度の若犬らしいことが分かりました。私はこの段階で、この犬の病状が容易でないと判断し、「Yさんのお気持ちは素晴らしいと思いますが、この犬を飼う事は治療費も含めYさんの負担が大き過ぎます。
健康な子犬を飼う様に考え直してはいかがですか?」
とお勧めしました。Yさんのご意志は固く、
「何かの縁です。飼いますので、治療してください。」
と、実にきっぱりおっしゃいました。
そこで、さらに診察と検査を進めたところ、エコー検査で肝臓が極度に腫大し、肝機能検査でも測定限界を超えるほど悪い値を示し、貧血の指標であるヘモグロビン濃度や全身の栄養状態の指標である血液中の蛋白濃度が著しい低値を示すこと、甲状腺ホルモン分泌不全までが存在することなど、外観以上に状態が悪いことが判明しました。各種検査所見の意義や経過の見通し、治療方法、治療費概算など、洗いざらい説明して、Yさんの反応を伺いましたが、
「分かりました。治療して下さい。」
の一言で、拍子抜けするくらいでした。
ヤッピーちゃん(申し遅れましたが、Yさんは彼女に『ヤッピー』という素敵な名前を付けていました。)が、どんな事情で、いつから放浪生活が始まり、その間何を食べていたのか、どんな目にあってきたのか、ワクチンの接種は?などなど、分からない事だらけでしたので、肝臓障害、貧血、脱毛などに対し、点滴注射による対症的な治療を開始しました。
ご家族全員での手厚い看護もあり、ヤッピーちゃんは、治療に良く反応し、食欲も回復。
日に日に元気を取り戻してくれました。点滴注射を飲み薬と食餌療法に切り替えてからも、各種所見は私の見通しを上回るペースで改善し、現在では甲状腺ホルモン濃度(甲状腺に対する積極的な治療はしていない)さえ正常値を示すほどです。それに伴い、表情は活き活き。動作もきびきび。体毛も生え揃い、美少女系に大変身。
精神的にも落ち着いて、すっかりYさんご家族の一員。人気者になりきっています。私には、初診の時にYさんのおっしゃった、「何かの縁」の一言が深く心に残りました。
「袖刷りあうも他生の縁」、「一期一会」。
「出会い」って不思議ですね。
「縁」って良いものですよね。私も皆様や皆様のペットさんとの「出会い」や「ご縁」を大切にして参ります。それにしても、ヤッピーちゃんの以前の飼い主さんは、どんな事情があって彼女と別れ別れになったのでしょうか?
病気なので、置き去りにしたのでしょうか?
迷子になって、今も彼女を探し続けているのかしら?
なんて呼ばれていたのかな?何はともあれ、今が一番幸せだよね。
お話ししてよ。ヤッピーちゃん!!
8月も下旬に入って、ようやく ようやく暑さが和らぎましたね。
24節季の処暑は8月23日。立秋は8月8日。
今から、2週間近く前に季節が秋に入っていたなんて。
今年の7、8月の猛暑から受ける感覚で言うと、ぜんぜんピンと来ません。でも、立秋とは、秋の「気が立つ」の意。
気温が37℃!!を超えていても、入道雲の上空に筋雲が見えていたり、葛や萩に蕾みがついたり、アキアカネが舞っていたり、確かに秋の気配は忍び寄っていたのですね。
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
とは、昔の人の季節感とその表現力の豊かさに感嘆させられます。
ところで、「気配」と言う言葉。
ワンコがご主人の帰宅を何故か感じ取る能力に驚かされることが良くあります。
帰宅時間に関係なく、足音など聞こえるはずもない、はるか遠くからご主人の「気配」を感じ取り、玄関まで出迎えるワンコは普通にいます。
「早く帰って来ないかな」の思いが、ワンコの感性を研ぎ澄まして、ごく僅かな「気配」を察知できるのでしょうね。
健気だぞ。ワンコ。「気配」の本質についてインターネットで検索すると、「生物の活動により発せられる電磁波エネルギーで、例えば人間が歩くと、歩行の都度50v/mの電磁波が発生し、皮膚にある感覚器を刺激して感じられる」云々の記述が沢山出て来ます。
インターネットで得られる情報は玉石混交。
全面的に信じるには覚束ない情報源ですが、説明できない力が動物に備わっているのは確かでしょう。気配を察知するのは獣医に取っても、必要な素養。
なぜなら、動物は口をきいてくれませんし、野生の弱肉強食の世界を生きて来た記憶からか、「弱み」を隠そうとする本能があるので、病状が進むまではっきりした症状を表わさないことが多いからです。その前段階で、「あれっ?何か変だぞ」と、体調の変化・異常を嗅ぎ取るセンスが重要なのです。「何か変だぞ」と感じれば、診察をより注意深く行いますし、必要な検査を行うことも出来、早期発見・早期治療の道が開けますからね。また、治療継続中の動物の「変化の兆し」を気配として感じることもあります。
検査の数値や臨床症状には変化は認められないものの、「良くなる気配」、逆に「悪化する気配」が理屈では説明できませんが、感じられる時があるのです。医師も獣医も診察に際して、見て(視診)、聴いて(聴診および飼い主さんからの問診)、叩いて(打診)、触って(触診)、嗅いで(口内炎、外耳炎、尿毒症などに際してはとても重要)の、味覚以外の五感を総動員しての主観的診察+検査成績(客観的データ)の評価を行いますが、説明不能な「異常の気配」を発信する動物は確かに存在し、臨床獣医師としてはそれを感じ取るセンサーを磨かなくてはならないと思うのです。
こちらが、過労や寝不足、風邪引きなど体調不良の時は、このセンサーの感度が落ちてしまいますので、私自身の体調管理も大事な仕事の内だと考えています。現在、午後10時を過ぎたところ。
そろそろ、愛犬こーちゃん、のんちゃんとの夜のお散歩に行って、明日に備えて早めに休む事にしましょう
昔から「オソロシイこと」を表す言葉として、「地震・雷・火事・親父」というのがありますよね。日本列島は地震列島。
地震の巣の上に高層ビルが建ち並び、その間を折り重なるようにして新幹線やら、高速道路やらが走り回っているのですから、日本の日常の危うさを痛感させられます。
中国奥地の四川省の地震でも、先日の東北内陸部の地震でも、大きな山が丸々崩れ落ちた映像が繰り返し放映されて、地震エネルギーのもの凄さを思い知らされました。
耐震強度が不足していて、震度6程度で倒壊する恐れのある公立の小中学校が10000棟もあるにもかかわらず、耐震補強が遅々として進んでいないとの報道も眼にします。
工事に必要な予算「1兆円」が障害になっているそうですが、四川の子供たちに及んだ、とんでもない災厄が日本でも起きる可能性があるなんて、冗談じゃありません。
日本得意の免震技術の粋を凝らして、校舎の補強・子供たちの安全確保を最優先にするようお願いしたいです。
こうしている数分後にも起きる可能性があるわけで、地震がオソロシイものの筆頭に挙げられるのも当然のこと。続いて雷。
当院を建築した8年前には周囲に建物はなく、野中の一軒屋状態でした。
ですから、雷が鳴り始めると我が家に落ちるのではないかと、いつも冷や冷やしていました。
家の中にいる限り、雷の直撃に遭っても、人的被害は心配ないそうですが、病院業務はカルテ管理など、コンピュター頼りの部分が多いです。
実際、数年前にあった長津田変電所の落雷事故の際には、PCのデータファイルが破壊され、ゼロから入力しなおしになり、大変な思いをしま
た。
火事も平和な日常を一瞬にして破壊するオソロシイ人災です。火の用心!!そして、「親父」ですが、私の周囲にはオソロシイ親父なんて居ま
ん。
実父も義父も私のダンナも、子供たちにはミョウに物分かりの良い、優しい(頼りない)オトーサンです。
調べてみると、地震・雷・火事・親父の「親父」の元々は「山嵐(やまじ)」。台風の古語です。
この「やまじ」がいつの間にか「親父」に変化しての「地震・雷・火事・親父」。
台風なら確かにオソロシイ。ところで、ワンコにとって「オソロシイ」の横綱は、なんと言っても「雷」でしょう。
ピカッが怖いのか、ゴロゴロが怖いのか、雷の間中、部屋の隅でガタガタふるえっ放しのワンコ、悲鳴を上げるワンコ、果てはお漏らしするのまでいます。
また、恐怖に駆られて脱走して、迷子になったり、交通事故に遭うワンコも少なくないので、雷の時は家の戸じまりをお忘れなく。
ワンコにとって、飼い主さん一家は「オオカミなどの群れ」に相当し、自分は群れの一員だと言う風に自覚しています。
「群れ」には秩序とその秩序を維持するボスが不可欠。
ワンコは群れの中で、ボスに支配され、服従することを好み、秩序の中に安らぎを感じる性質があります。
普通、家族のリーダーはお父さん。「親父」ですよね。
多少横暴でも、頼りになる親父に服従しているのはイヌにとっては幸せな状態。
優しいが頼りにならないリーダーの下は居心地が悪く感じられ、ワンコ自らがリーダーになろうと試みる(反逆)する場合もあります。
「飼い犬に手を咬まれる」はこう言う状況で起こりがちです。そんな訳で、皆様の「群れ」がボスのリーダーシップの下(ガンバレ親父!!)、
平穏な日々を送れることをお祈りする次第です。
僕たち、パグやブルドック、フレンチブルにボクサー、ペキニーズやシーズー、キャベリアそれに狆などなど、お顔全体が前から押しつぶされたように平坦ですよね。
僕たちほど顕著ではありませんが、チワワもポメラニアンも、かなりお鼻が短くて、その分、幅の広い顔つきをしています。それに比べ、コリー、ボルゾイ、アフガンハウンド、グレーハウンドなどは鼻筋がスッキリ通っていて、スタイルも抜群。かっこいいですよね。あこがれちゃいます。
僕たちイヌの祖先について、細かいところでは不明な点はありますが、オオカミから進化したことは定説になっています。
ご先祖様のオオカミの頭を標準に、それより長く変化したのを長頭型、短いのを短頭型、
さらに短いのを極短頭型などと区分しているそうです。実は、僕たちのペッチャンコの鼻には、生きていく上で有利なことはあまりありません。
まず、闘いに不利です。世間ではブルドックは喧嘩に強いイメージが広がっていますが、これは誤解。
本当に強いのはブルテリア。僕たちの短い口吻ではどうしたって咬みつき難いですからね。次に、ペチャンコ鼻になってしまったせいで、顔面・頭頚部のパーツの配置に無理が生じ、
様々な病気の原因を抱え込んでしまいました。例えば、眼が収まる眼窩は浅くなり、広くなり、要するに眼が金魚の出目金の様に飛び出てしまい、角膜に傷を負いやすくなっています。
波及して角膜炎、緑内障、白内障などの発症率が高いのです。それに、顔の皮膚が弛んでダーツになっているので、汚れが溜まり易く、皮膚病の温床になっているのです。
シャンプーの時には皺を伸ばして襞の奥まで洗ってくださいね。顎が小さくなって、歯槽骨も上下42本の歯列を収容するスペースが不足し、歯並びは悪いし、歯周病になりやすいのも悩みの種です。
歯磨き、よろしくお願いします。呼吸する時の空気の通り道も狭く、曲がり方が急で、色々なトラブルを起こしやすいです。
その代表が短頭種気道症候群と呼ばれる病気で、鼻孔、鼻甲介、鼻咽頭の軟口蓋後端部、および舌骨装置における気道狭窄によって生じる呼吸困難です。
ム、ムズカシイ。舌を噛みそうです。特に軟口蓋が普通より長く、空気の通り道を塞いでしまう軟口蓋過長と言う状態に陥りやすく、麻酔の時の事故がこわいです。獣医さん泣かせ。
短頭種気道症候群がひどい場合には軟口蓋切除術などの手術が必要になります。おまけに、親父キャラのブル君には人間並みに睡眠時無呼吸症候群もあるんですよ。
お父さんには申し訳ないけど、笑えますよね。頭蓋骨も扁平(横広がり)に変形していて、脳・脊髄液の流れが阻害される脳圧亢進に伴う病気も起こりやすいですし、頭が骨盤サイズに比して大きいので、お産の時がまた大変なんです。ブル君などは帝王切開で生まれる割合がとても高い(当院では50%を超える)ので、お産のことを考えると、気分がブルー。
ついダジャレが出ちゃいました。座布団1枚もらえませんか?そんな、不利なペチャンコ顔ですが、僕たちの容貌には人間のハートを和ませる作用があるんです。
間隔が開いたパッチリのおめめで、首を傾げてウルウル見詰められて、胸キュンとならない人はいませんよね。
ですから、欧米でも日本でも僕たちは人気犬種の上位にランクされているのです。すごいでしょ。チャーミングな半面、少しハンデを負って生きている僕たちを、可愛がってくださる飼い主さんにお願いがあります。僕たちにとって、太り過ぎは何一つ良いことはありません。
特に、「短頭種気道症候群」の最悪のリスクファクター(発症要因であり増悪因子)なのです。
フードの袋に印刷されている、カロリー表示を調べてください。そして1日の必要量を計算し、その量を守って欲しいのです。僕たちは皆、食いしん坊で、お腹いっぱい食べられないことはとても辛いのですが、我慢します。
さらに、運動不足は呼吸に関与する筋・骨格を脆弱化してしまいます。
お散歩をみっちりさせて下さい。
その様にして体重・体調管理を徹底していただきたいのです。ところで、本題の「鼻がペッチャンコの訳」ですが、僕たちの頭の形(形質)を決定付ける遺伝子については、解明されていない様です。
「短い鼻の方が長い鼻より優位」程度の記載はありましたが、根拠は明らかでなく、それ以上の記述は見つかりませんでした。人間については、民族学的な観点からの研究や、先天疾患の原因遺伝子解析などの研究から、顔かたちに与える遺伝子は、かなりのところまで分かっているようですが・・・。皆様の中で、ワンコの鼻の形についての情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えて下さいね。
「ラニーニャの影響」とか「北極振動」とか色々原因が取りざたされていますが、なんにしても、大寒目前のこの頃。本格的に寒くなりました。狂歌に、
ひもじさと 寒さと色を比らぶれば、 恥ずかしながらも ひもじさが先とか言うのがあったように記憶しています。
食欲などの本能に列せられるほど、昔の人には冬の寒さが堪えていたのでしょう。
そう言えば去年、底冷えのする初冬の日曜日、菊花展を見に横浜の八景園に行った折、岐阜から移築したと言う、合掌造りの古民家に立ち寄りましたが、寒がりのダンナが「昔の人はこんな寒い家で良く冬を越せたな」と呟いていたのを思い出します。
その家は、お台所や洗濯場は北側にあり、しかも土間の構造。
そこでの長時間の炊事洗濯は体の芯まで凍えそうです。その点、最近の家は高断熱、高気密の上に床暖房まで備わって、冬でも快適ですよね。
ニャンコはもちろんワンコも毎日ヌクヌク快適で結構だと思います。今月8日は我が家の愛犬、コーギーのコーちゃんのお誕生日で、満11歳になりました。
ワンコの11歳は人間の年齢に当てはめると60~64歳くらいに相当します。
一昔前、10歳以上のワンコは、「すごく長生きですね」と感心されたものですが、今のワンコたちにとって10歳なんて還暦前後。
元気盛りですね。人間の還暦も元気盛り。
コーちゃんも団塊世代の私達もまだまだこれからです。この様に、人間、ペットともに健康で長生きの時代ですが、これには食生活、医療・保健衛生の向上と並んで、
住環境の進歩がものすごく寄与しているのだと思います。日本の住宅は、木造在来の軸組み工法、枠組み壁工法、鉄骨と各種の外壁材を組み合わせる工法、鉄筋コンクリート工法と
実に様々ですが、それぞれの工法関係者が知恵と技術を競い合ったお陰で、四季を通じて住みやすい質の高い住宅に進化していると思います。
関係者に敬礼したいですね。寒い話題ばかり書きましたが、日の出の時間が確実に早まっているのにお気づきですか?
また、早暁に南東の空を見上げると、春の星座の代表、おとめ座の一等星のスピカが高度を上げてきています。
今、スピカは月のすぐ側にありますので、肉眼でも判かり易いです。庭先では沈丁花のつぼみがシッカリふくらんで来ていますし、玄海田公園の北側の畑では菜の花が黄色い花を開き始めています。まさに「冬来たりなば、春遠からじ」です。
ワンコのお散歩も億劫になりがちな此の頃ですが、冬場の肥満は本格肥満の始まりですので、無理のない範囲でがんばりましょうね。
ぼくたち、ダックス、コーギー、シーズーにバセットなど、みんな足が短いでしょ?
皆さんは、足が短いぼくたちの仕草に独特の愛らしさを感じてくれますよね。
実は、ぼくたちの体型・仕草には人間の母性本能を刺激する働きがあることが分かってきています。
だから、日本でもアメリカでもぼくたちが人気犬種の上位を占めちゃうのです。ヤッタね。
愛らしいだけでなく、足が短いには短いなりの理由と言いますか、必然性があるのです。
ぼく、ダックスはアナグマなど狭い穴を隠れ家としている小動物を狩るのが元々得意だったのですが、もっと上手に穴にもぐれる体つきを求めて、足の短い両親を選んで子孫を残し続けた結果この体型を獲得したのです。イギリスはウエールズ地方が故郷のコーギー君は、牛の番をする使役犬として飼育されていて、主なお仕事は牛を牛小屋や輸送列車に追い込むことだったのです。列車なんかに絶対に乗りたくない牛さんはひずめで蹴ったり、角を振り回すなど抵抗します。
その時にコーギー君の低い体つきが威力を発揮して、牛の攻撃を避けつつ、後ろ足の踵部分に咬み付いて、牛を牛小屋などに誘導して行くのです。コーギー君もぼくと同じように選択交配を続けて足の短い遺伝子が固定されたのです。では、ぼくたちの足が短くなる、発生メカニズムはどうなっているのでしょう?それは、足の骨の成長板(成長軟骨)が普通のワンコに比べ早く閉じてしまい、それ以後足の骨が成長を止めてしまうことによると説明されています。
四肢の骨に限局して骨端線早期閉鎖が起こる現象はごく早期から始まっていて、頭や胴体など、他の骨格は成長し続けるのに手足だけが伸びなくなってしまう結果、体に比べ足が短いスタイルが出来上がるのです。本質的には、「成長障害」と言う病気に該当するものです。
でも、長年にわたる交配の結果、この遺伝子は固定され、この状態が、ぼくダックスの正常な姿ということになっているのです。えっ?「短い足で、長めの胴体を支える体型に無理はないのか」ですって?
すごく鋭いご指摘です。そうなんです。無理があるんです。
特に背骨に年齢とともに様々な疲労性の変性疾患が出てきてしまいます。どんな無理があるのか?普通のワンコが階段を下りる時のことを考えてみてください。
例えばコーギー君と同じくらいの胴体、体重で足が長いシェルティーちゃんの降り方は、四本の足を左右順番に繰り出し、スムーズに体重移動をしながら降りることが出来ます。でも、短足コーギー君は両前足一緒にトントンと降りていますよね。
その都度、体重×落下速度の二乗のエネルギーがコーギー君の背骨を直撃し、クッションの役割の椎間板にダメージを与え続けるのです。
その衝撃が積み重なり、ぼくたちは脊椎椎間板症→ヘルニアの道を進みやすい宿命を負っているのです。ここで、「体重」と言うKey Wordが出てきましたよね?人間と違い4本足のぼくたちは、背骨が水平につながっています。
家に例えると、家の重み(体重)を支える「梁」の役割ですね。
直立歩行の人間の背骨は縦方向につながっていて「大黒柱」になぞらえることが出来ると思います。柱と柱の距離が長い梁には、短い場合より歪みの力が大きくかかりますが、ぼくたちの背骨(梁)にも、常に体重に比例する歪みの力が加わるのです。ですから、ぼくたち胴長・短足ワンコの飼い主さんには、まず「肥満防止・体重減少」を、心からお願いするのです。ぼくたちは食いしん坊ぞろいで、ご飯やおやつが人生最大の楽しみです。
やさしい飼い主さんは、ご飯やおやつを沢山くれたがりますが、心を鬼にしてくださいね。
さらに、階段やソファーなどの昇り降りは回避するよう、お願いします。誤解を招かないようにつけ加えますが、適度な運動や散歩は背骨を保持する役割の筋肉を維持する上で、絶対に必要なものですからね。ダメなのは階段昇り降りです。
今年は、季節の移りかわりが急ですね。
みなみ台周辺も落ち葉が舞い散り、あっという間に真冬の装いです。オオカミをご先祖とするワンコは、寒いのヘッチャラ(チワワなど例外はありますが)。この季節が一番好き。体毛の状態も食欲・元気も絶好調。広場などで放してあげると、冬枯れた木立の間を嬉々として走り回りますよね。そして、お家に帰ってみると、体側の毛などに、「ひっつき虫」がひっついているのに気付かれ、取ってあげるのに苦労された経験がおありの方も多いのではないでしょうか?
植物は子孫を残すために,種子を飛び散らすいろいろな工夫をします。
カエデやタンポポのように風に乗って遠くに飛んでいくもの、ホウセンカのように自力ではじけ散るもの、甘く、栄養豊富な果実を実らせ、鳥類に食べさせて糞中に排泄されるものと、さまざまです。ひっつき虫の正体は、言うまでもなく植物の果実(種子)で、動物に付着することにより、種を少しでも広範囲に運んでもらい、子孫繁栄の確実性を増す営みです。生物学では動物に種を運んでもらうやり方を「動物拡散」と呼ぶそうですが、宮崎県知事さんではありませんが、「そのまんま」のネーミングですよね。みなみ台に多い「ひっつき虫」はオナモミ(正確にはオオオナモミ)とイノコズチです。オナモミはキク科の植物で、一風変わった名前ですが、由来は、果実が衣服に引っかかる様子を表すナズム(滞ると言う意味の動詞)があり、転じて、ナモミになり、さらに雄ナモミ(オナモミ)に変わったそうです。ナルホド。
別に、葉をもんでつけると虫さされに効くというので「生揉み(ナモミ)」から付いたとの説もあるそうです。
ナルホドナルホド。この様にオナモミは薬草ですが、とりもなおさず毒草でもあり、毒性成分としては, carboxyatractyloside(カルボキシアトラクティロシド:早口言葉見たいです)が同定されているそうです。この成分をラットに注射すると13.5mg/kgと言う微量で半数の動物が死に至る程の猛毒で、子牛などの中毒(低血糖症状)が報告されています。ひっつき方は、実の周囲に、かぎ状になったトゲトゲがあり、それがセーターなどにからみつきます。イノコズチはヒユ科イノコズチ属の植物で、茎の節が猪の膝のように膨れている様子から付いた名前ですが、中国では猪ではなく牛膝と呼ぶそうですね。
面白くありませんか?イノコズチのひっつき虫はオナモミと比べずっと小さい代わりに、数が多く、絡み着き方も強力で、ワンコやニャンコの体から取り除くのに苦労しますよね。また、マルチーズなど長毛種の眼の周りの毛に絡みついた場合、結膜を刺激して激しい結膜炎を引き起こすこともありますので、ご用心。オナモミ同様、イノコズチも薬草・漢方として古くから使用されます。
今頃の時期に根を採取し、洗って乾燥させた後、煎じてに飲むと神経痛、関節痛などに効くとされています。女性の月経不順や婦人病にも効果があるといわれています。さらによく煎じてシロップ上にしてガーゼなどに塗って貼ると乳腺炎にもよいといわれています。薬用成分にはステロイド骨格を有するエクダイステロンやイノコステロン、ベータシトステロール、スチグマステロール、ならびにそれらの配糖体も含まれるそうです。さて。夜の帳が迫ってきました。
今日も冬晴れのお散歩日和。
いつものコースより一足伸ばして、愛犬こーちゃん、のんちゃんお気に入りの岩川周遊コースをハーフスピードで、一回りしてきましょう。
ブラッシングでの「ひっつき虫取り」が待っているけど覚悟は良いよね。
オオオナモミ
イノコズチ
最近、テレビのワイドショーや新聞の社会面では、聞くに堪えないような事件や犯罪が多くて、気が滅入りますよね。
自分の肉親を餓死させたり、年金受給をストップされるのを避ける為に、病死した親を庭に埋めて、生きているかのように装うなど、獣医の私としては「あなたこそ本物のケダモノよ」と言いたくなります。そんな輩と比べるのは、失礼すぎますが、当院を受診くださる皆様がワンコ、ニャンコを大事にされている様子は、「慈しむ」と言う言葉そのものに感じられるのです。
「慈しむ」は「愛しむ」とも書くそうですが、広辞苑には目下の者や弱い者に愛情を注ぐ。かわいがって大事にする。と説明されています。
使用される文例として、「わが子を慈しむ」が上げられています。腎臓病から尿毒症に陥り、衰弱が進行していったCちゃんは、家族全員に見守られながらの幸せな最後を迎えました。ワンコとしては最高に「慈しまれた」一生だったと思います。また、どんなに衰弱してもトイレに関して手を煩わせなかったのは自尊心の強いCちゃんらしく、親孝行でした。最後の最後まで懸命に手を尽くされた、ご一家の皆様には本当に頭が下がる思いです。脊椎障害の手術を都内の大学病院で受けたものの、腰から下に完全麻痺が残ってしまい、以後5年もの間不自由な生活を余儀なくされているNちゃん。どうしても避けられない、床ずれ(褥瘡)を生じながらも、リング座布団の使用による除圧の工夫など、飼い主さんの深い愛情に支えられて、重い障害はあっても充分に満ち足りた毎日を送れています。華奢な体に6匹もの赤ちゃんを宿し、何とかお母さんになれたRちゃん。
産後のきつい体に鞭打って、懸命に赤ちゃんの面倒を見ていました。赤ちゃんの中には、低体重児も混ざり、母乳を自力吸引できないため、生育が安定するまでの2週間は、昼夜の区別なく2時間おきに哺乳に当たられた飼い主さんのご苦労。ワンコのお母さん、人間のお母さん、お疲れ様でした。口腔内に扁平上皮がんという悪性腫瘍が出来て、ご飯を食べられなくなってしまったネコのMちゃん。日に日に痩せて行くので、最後の手段の抗がん剤治療を行い、一時的にはがんが消えましたが、結局再発してしまい、亡くなりました。
つらい抗がん剤治療(やはり色々な副作用が出ます)を行った夜には、(5クール延べ3か月にも及びました)、ひと晩中、Mちゃんの体をさすり、励まし続けてくれました。トイプードルの中でも、断然小柄なCちゃん。
17歳という高齢を迎えた今、僧帽弁閉鎖不全と言う重い心臓病と、乳がん、左全眼球炎、子宮内膜炎を患っていて、満身創痍の状態です。僧帽弁閉鎖不全の結果、心臓が肥大し、房室ブロックという不整脈にも脅かされ、毎日が「今、そこにある危機」の状態です。
そのため、乳がんや全眼球炎、子宮内膜炎に根本的なメスを入れることができません。
でも、「Cちゃんと過ごせる1日1日が貴重で愛おしい」とおっしゃる飼い主さん。
1日1日が充実したものにするお手伝い(治療と言う言葉は相応しくありません)には絶対に気が抜けません。以下、路島は霊峰先山千光寺のご住職のことばだそうです。多くのものを慈しむことが真の幸福を育んでいることに気付こう
そうですね、他者を慈しむと言うことは、自分自身を高めることにつながるんですね。
私もまずダンナを慈しむことから始めるつもりです。でもこれが、なかなかムズカシイ!!反省しよっと。