「下痢・軟便」の症状で来院されるハムスター、モルモットの便から、ぎょう虫の卵が検出される機会が増えています。
それも、ペットショップなどで購入したばかりの子供のハム君、モルちゃんから主に発見されます。
げっ歯類は植物繊維を消化するために、特殊に進化させたデリケートな消化管を持ちます。
例えば、ハムスターには、頬袋、2つに分かれた胃袋、大きな袋状の盲腸などがあり、どの部位も病原性微生物や寄生虫などの感染にさらされていて、命取りになる可能性があります。
どんな虫なの?:
ハムスターなどのげっ歯類から検出されるぎょう虫はネズミ盲腸ぎょう虫(Syphacia obvelata)と言う種類のものが多いです。
その名の通り、盲腸から結腸にかけての大腸に寄生します。
成虫の大きさはオス:1~2mm、メス:3~6mmと小さく、細くて白い糸屑のように見えます。
どうやって感染するの?:
成熟したメスはお昼頃、肛門周囲に移動し、「柿の種」の様な(顕微鏡で見るとです)虫卵を産みつけます。
ヒトのぎょう虫は、深夜から明け方にかけて、肛門周囲に移動し産卵しますが、この違いは、宿主(ハムスターやヒト)の睡眠している時間帯の違い(ハクスターは夜行性)によると考えられています。
肛門周囲がむず痒くなるのでヒトの場合は手で掻いて、その手で食べ物を食べる行為により感染し、ハムスターは直接舐める行為により感染が成立するわけです。
どこで感染するの?:
複数の動物たちが密集して飼育されている環境、つまり、繁殖施設やペットショップで蔓延している場合が多く、お家に来た時には感染しているCaseが殆どです。
どんな症状?:
軟便・下痢が主な症状です。他には、瘠せている。尾が濡れている。などの症状が普通です。
この病気だけでは、死に至るようなことはまずありませんが、細菌性腸炎、原虫性腸炎を併発すると、極めて重症化するので、この点注意が必要です。
治療法は?:
パモ酸ピランテル(ヒトのぎょう虫症にも用いられます。安全性が高い薬です)の内服で治療可能です。一回だけの駆虫では不完全なことが多いので、1週おきに2回から3回服用させます。
その他:
一般に、ぎょう虫類は宿主特異性が高いとされています。
即ち、げっ歯類のぎょう虫はヒトなど非げっ歯類には寄生しないと言う意味ですが、生き物に100%はありません。
飼い主さんの健康を守るため、ぎょう虫寄生が証明されたハム君などをお飼いの場合、触った後の手洗い徹底やウンチの処理、ケージ、寝床の清掃徹底をお願いします。
以前、「最も身近で謎の多い野鳥」としてスズメをご紹介しました。
ゴミを食べ散らすこと、縁起の良くないイメージなど、スズメと比べ、人気がないカラスですが、身近な割に不思議が多いと言う点ではスズメ同様、なかなか奥深い野鳥です。
当院の患者さんとして、スズメは来院することがありますが、幸か不幸かカラスは未経験です。
ところで、関東地方にはハシブトガラスとハシボソガラスの2種類がいますが、みなみ台周辺ではかなりハシブト君が優勢です。大体6:4くらいです。
両者の差を大雑把に言うとくちばしが太くてカアと澄んだ声で鳴くのがハシブト君、くちばしが細くてガアガア鳴くのがハシボソ君です。
ハシブトガラス | ハシボソガラス | 一言いわせて | |
---|---|---|---|
嘴の太さ | くちばしが太い | くちばしが細め | 遠目では区別不能 |
頭と嘴 | 頭との間に段差 | 頭との間に段差なし | |
全国分布 | 東日本に多い | 西日本に多い | この辺では混在 |
生息地域 | 森林と都市部 | 農村部、河原 | この辺では混在 |
鳴き声 | カーと澄んだ声 | ガーと濁った声 | ハスキーなハシブトもいる |
鳴くときの動作 | 頭を低くし、尾を上下に動かしながら | 頭をしゃくりあげ、上下に動かしながら | 区別する上で決定的な情報 |
お肉の風味 | 臭み強く、不味い | 上品、美味 | 責任持てません |
カラスの知能が発達していることは有名です。
記憶力(いじめた人間をシッカリ記憶。エサの隠し場所を正確に記憶。)、数量の認知能力(3までは認知できる。つまり巣の中から3個の卵のうち、1個を隠すと、カラスはその変化を理解し、探し回る。)、学習能力(くるみの実を道路に落とし、車に踏ませ、割って食べる。針金を曲げ道具を作り、エサをつり上げる。)、コミュニケーション能力(主に鳴き方で10種類程度の情報伝達ができる)それに、何より遊びの能力(滑り台で滑って遊ぶ。空中でゴルフボールを落として奪い合うゲームで仲間どうし遊ぶ。)、オランウータンなみです。感嘆させられますよね。
知能の裏づけになる脳神経組織についてですが、大雑把に言って神経細胞数がニワトリの約6倍もの密度で、鳥類では傑出していることが分かっています。
知能が発達した理由として、宇都宮大学農学部機能形態学研究室の杉田昭栄教授は、
「カラスは猛禽類のように鋭いつめなど特別な武器がなく、水に潜れるわけでもない。特長のない鳥だ。生き残るためには頭脳に頼るしかなかったのが髙知能化の理由だと思う。それに、お盆や正月で生ごみの量が減るなどえさが安定供給されない都市環境での生存には貯食などの学習応用能力が必要になる。生来の頭の良さに加えて、都市生活の厳しさが知能をどんどん高度化させている」と説明しています。
高い知能は勤勉の賜物なのですね。えらいぞカラス。
また杉田先生は、「人間は身勝手で、トキのように数が減れば大事にする。人間の節操のない生活で、どんどん生ごみの量が増え、カラスの繁殖を促している。ごみ排出量が減ればカラスの数も減り、以前のカラスと人間の良い関係が復活するのでは」と辛口のコメントをなさっています。
カラスは集団で社会・組織を作ります。リーダーを定め、偵察部隊、見張り役など役割を決めて生活します。トビやタカなどに襲われたときは、リーダーの指揮下、チームワークを発揮して戦うそうです。ヒエラルキー社会ですね。
カラス君の名誉を守るためにも、彼等の良いところを二つ紹介しますと、
・清掃係を務めている:田畑、森、街中、どこでも動物の死骸や様々なゴミを食べ、消化し、有機物として排泄し、食物連鎖の一翼を担っている。
・固い絆の一夫一婦制:毎年必ず?同じペアで巣づくり・子育てするそうです。
人に嫌がられても、邪魔にされても、「カラスの勝手でしょ」とわが道を行くマイペース野郎のカラス君。
夫婦仲が良くて終生、一夫一婦制を守って子育てするカラス君。
君たちなりに、勤勉に学習し、一生懸命生きているんだよね。
邪険にするのはやめて、暖かく(ムズカシイけど)見守ることにしましょう。
そして、もし君がケガや病気したら診てあげようね。
「動物界、脊索動物門、脊椎動物亜門、哺乳綱、食肉目、裂足亜目、イヌ科、イヌ属、イヌ」これが、私たちが愛してやまないワンコたちの分類学上の位置づけです。
最後の「イヌ」が「種」を示していて、すべてのワンコたちは「イヌと言う種」の哺乳類なのですよね。
生物の学名を論文等に記す場合、『二命法』と言って、分類の最後の二つ、すなわち、属・種をラテン語で書くことになっています。
例えば、私たちヒトはHomo sapiens(ヒト属・ヒト)と表され、イヌの場合、Canis familialis(イヌ属・イヌ)となります。
そ~ん~なの~常~識~。でも、その常識が私の中では長年大きな不思議だったのです。
チワワとグレートデンではどれほど大きさに差があるのでしょうか?
体重で言うと、30-40倍にもなります。
地球上に現存する、あるいはすでに死滅してしまったあらゆる脊椎動物の中で、ワンコほど、一つの種の中で体格・体型のふぞろいな種はありません。
エッ?カバとコビトカバだって体重差が楽に10倍はあるじゃないか。ですって?
そのとおりですが、コビトカバは立派に独立した「種」で、カバとは分類上異なる生き物なんです。
「種」とは、一言で言うと生殖能力を持つ子孫を残せるかどうかで定義されます。
例えば、ウマとロバが結婚するとちゃんと子供が出来ます。
そうです。その子供はラバです。
でも、ラバには子供を作る能力がなく、一代限りです。
ですから、ウマとロバは別の「種」になる訳です。
チワワやヨークシャーテリア、セントバーナードといった、ワンコのいわゆる「種類」は「品種」に該当するもので、全てCanis familialisで同じ「種」です。
同一の「種」なのに、体格に大きな差が生じるメカニズムを明らかにしたいという野望を持つ研究者は大勢いましたが、これまで容易には解明されずに今日まで来たわけです。
ところで、ワンコのご先祖様はオオカミ。
むかしむかしの大昔(約1万5000年前)、一部のオオカミが、人間と共同生活を始めるようになったそうです。
きっかけは、単独で獲物を狩ることが困難な、小さくて、か弱いオオカミ?が、人間の狩のお供をして、ご褒美に獲物のおこぼれをもらうようになったことや、人間集落に入り込んで、人間によって外敵から身を守ることを覚えた、などの可能性が推測されています。
そして、「猟の手助けが上手」や「番犬として有能」、「従順」など人間に役立つワンコが選ばれ、残される行為(原始的な選択育種)が連綿と行われ「飼い犬」の姿かたち、性質の原型が出来上がりました。
さらに、近年になってからは愛玩犬や使役犬を目的に、より計画的・人為的に淘汰が行われ、各犬種の体型や能力、特徴が急速に分化・固定していったと言う歴史があります。
現在のワンコの体格から過去(オオカミの体格)を振り返ると、グレートデンやセントバーナードなど、大型方向への変化は部分的。
体重の増加はせいぜい2-3倍にとどまります。
一方、小型方向への変化はずっと大幅かつ急速で、チワワやヨークシャーテリアなどではオオカミの10-20分の1にも小さくなっています。
イヌの体格は大型化と小型化が同時進行している状況ですが、全体としては小型化の方向にあると言えるのでしょう。
ここら辺までは、私たちが中学・高校で習った、ダーウィンの進化論やメンデルの遺伝の法則で論ずることが出来る範囲・内容です。
では一体、ワンコの体の中ではどんなメカニズムが働いて、チワワの子犬はチワワの体格に、柴犬の子犬は柴犬の体格に収まる様に制御されているのでしょうか?
このメカニズムを解明するために、米国立ヒトゲノム研究所やユタ大などの研究チームは、細胞の成長や分裂を促す遺伝子の働きを制御するDNAを調べる、膨大な研究を行い、その研究成果を米国の科学誌サイエンスに発表しました。
研究の標的となった遺伝子は「インスリン様成長因子1(IGF-1)」と呼ばれるものです。
この物質は主として肝臓・筋肉などで、成長ホルモンの刺激により作られるペプチド(低分子のタンパク)で、骨の成長点の細胞分裂を促進する作用を有する広い意味での「ホルモン」です。
人間やマウスにもあり、人間の成長障害(小人症)にも関係しています。
研究は2段階に分けて行われました。
第1段階は、同じ犬種の中での体格の差とIGF-1の関係を調べるものです。
研究の対象となったのはポルトガル・ウオーター・ドッグと言う犬種。
米国オバマ元大統領一家の愛犬としてホワイトハウスに住むことになった、ボー君のポルトガル・ウオーター・ドッグです。
この犬種は個体間の体重差が3倍ほどもあることが特徴で、この研究には向いているのです。
体格差と遺伝子の変異の関連性を探るために約500頭のポルトガル・ウオーター・ドッグの骨格をX線で測定するとともに、血液を採取し、DNA分析を行いました。
その結果、IGF-1にかかわる遺伝子を構成するDNAの配列の違いが体格の差に関係していることがわかったのです。
いささか専門的になりますが、15番染色体のIGF-1遺伝子の働きを制御するDNA塩基配列に特定の変異があると、成長が抑制されて身体が小さくなること、具体的には15番染色体のある場所の塩基が、小型のポルトガル・ウオーター・ドッグではアデニン、大型のだとグアニンという具合に違っていたのです。
次いで、研究の第2段階として、チームはアメリカ中のドッグショー会場を巡り、143犬種の計約3200頭分のサンプルを得、DNAを分析して、この塩基配列変異と犬種としての体格についても研究をすすめ、関係があることを突き止めたとのことです。
将来、この遺伝子を操作することにより、チワワ並みのサイズのセントバーナードやその逆のチワワが誕生するかもしれないですね。
でも、あまり可愛くないかもね。